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前橋地方裁判所桐生支部 昭和59年(ワ)82号 判決

原告 彦部二郎

〈ほか一名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 飯野春正

同 大塚武一

同 田見高秀

被告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 戸枝太幹

主文

一  被告は、原告彦部二郎に対し、金六九八万一九七五円及び内金六四八万一九七五円に対する昭和五九年五月一一日から支払いずみに至るまで年五分の割合いによる金員を支払え。

二  被告は、原告彦部ハツエに対し、金五七五万六八七五円及び内金五三五万六八七五円に対する同日から支払いずみに至るまで年五分の割合いによる金員を支払え。

三  原告らのその余の請求は棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告らは、

1  被告は、原告彦部二郎に対し、金一二七三万二二六四円及び内金一一九三万二二六四円に対する昭和五九年五月一一日から支払いずみに至るまで年五分の割合いによる金員を支払え。

2  被告は、原告彦部ハツエに対し、金一〇七六万三一九五円及び内金一〇〇六万三一九五円に対する同日から支払いずみに至るまで年五分の割合いによる金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求めた。

二  被告は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一  原告ら主張の請求の原因

1  原告らの地位

原告彦部二郎(以下「二郎」という。)は、亡彦部麻弓美の父、原告彦部ハツエ(以下「ハツエ」という。)は、亡彦部麻弓美の母である。

2  交通事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 昭和五九年五月一〇日午後一一時二〇分ころ

場所 群馬県新田郡笠懸村大字鹿二三一六番地先村道

加害車両 普通乗用自動車群五七ゆ六六九七

右運転者 被告

右同乗者 彦部麻弓美ほか二名

事故の態様 被告が、右自動車を運転して前記道路を新里村方面から県道大間々尾島線方面に向けて進行中、右カーブ道路でスピードを出しすぎたため、後輪が左に流れ自車を道路右側に逸走させ、道路端の肥料置場のブロック塀に自車左側を激突させ、助手席に同乗していた彦部麻弓美を頭蓋底骨折、頸椎骨折により即死させた。

3  被告の責任

被告は、前記自動車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により前記彦部麻弓美死亡によって生じた損害を賠償する責任がある。

4  損害の発生

(一) 死体検案料、文書料 金五万一〇〇〇円

右は、原告二郎が負担した。

(二) 葬儀費 金一八一万八八六九円

右は、原告二郎が負担した。

(三) 逸失利益 金二〇一二万六三九一円

彦部麻弓美は、昭和三九年一一月三〇日生れで、事故時一九歳であった。

同人は、昭和五八年三月高校を卒業して同年四月一日から株式会社いせや桐生境野店に勤務していた。

同人の昭和五八年四月一日から同年一二月三一日までの給与は金一三〇万五四九五円、昭和五九年一月一日から同年三月三一日までの給与は金三六万二九四五円、一年間の給与合計は金一六六万八四四〇円であった。

同人は、本件事故に遭わなければ、七六歳まで四八年間就労可能であり、四八年の新ホフマン係数は二四・一二六である(期間は長いが、いわゆる初任給固定であるから、ホフマン係数使用が適切である。)。なお、同人は独身者であるから、生活費割合いは五〇%とする。

したがって、同人の逸失利益は、次のとおり、金二〇一二万六三九一円となる。

1,668,440×0.5×24.126=20,126,391

右逸失利益の損害賠償請求権は、原告らが、各金一〇〇六万三一九五円ずつ相続した。

(四) 慰謝料

各原告につき、それぞれ金一〇〇〇万円が相当である。

5  損害の填補

原告らは、自賠責から損害賠償金(保険金)二〇〇〇万〇八〇〇円の支払いを受けたので、これを原告二郎の損害に金一〇〇〇万〇八〇〇円、原告ハツエの損害に金一〇〇〇万円それぞれ充当する。

6  弁護士費用

原告らが、本件訴訟につき、弁護士に支払いを約した報酬の内、原告二郎支払い分金八〇万円、原告ハツエ支払い分金七〇万円は、本件事故による損害として被告が負担すべきものである。

7  結語

よって、原告二郎は、被告に対し、以上の損害金合計金一二七三万二二六四円及び内弁護士費用金八〇万円を除く金一一九三万二二六四円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五九年五月一一日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合いによる遅延損害金の支払いを求め、原告ハツエは、被告に対し、以上の損害金合計金一〇七六万三一九五円及び内弁護士費用金七〇万円を除く金一〇〇六万三一九五円に対する右同様の遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告の認否及び主張

1  原告ら主張の請求の原因1ないし3及び5の各事実は認める。同4の事実は知らない。同6、7の主張は争う。

2  被告及び訴外亡彦部麻弓美らは、昭和五九年五月一〇日午後一〇時ころ、訴外尾内一浩方に集り、相談の上ドライブに出掛けることになり、被告車両に右訴外亡彦部麻弓美、訴外尾内一浩、訴外丹羽弘江が同乗したものであるが、右事実は、好意同乗として、訴外亡彦部麻弓美の損害額の算定にあたり考慮されるべきである。

第三証拠関係《省略》

理由

一  原告ら主張の請求の原因1ないし3の各事実(原告らの地位、本件事故の発生及び被告の責任)については、当事者間に争いがない。

二  そこで、同4の損害の点について検討する。

1  《証拠省略》によれば、同原告が死体検案料及び文書料として金五万一〇〇〇円の支出をしたことが認められ、右は、本件事故による損害ということができる。

2  《証拠省略》によれば、同原告が、葬儀及び初七日の法要等に関して墓地使用料一五万円及び仏壇仏具代四一万五〇〇〇円を含む合計金一八一万八八六九円の費用を負担したことが認められるが、右の内金一二〇万円は、本件事故により同原告の受けた損害とみるのが相当である。

3  《証拠省略》によれば、彦部麻弓美(以下、「麻弓美」という。)が昭和五八年四月一日から原告ら主張のとおりの勤務をし、その一年間に取得した給与合計は金一六六万八四四〇円であったことが認められるので、同人は、原告ら主張のとおりの理由によって、本件事故により金二〇一二万六三九一円の得べかりし利益を失ったとみるのが相当である。

そして、前記争いのない請求の原因1の事実によれば、原告らは、相続により右得べかりし利益の喪失による損害賠償請求権を金一〇〇六万三一九五円宛取得したこととなる。

4  以上に認定したところによれば、本件事故により原告らの被った精神的損害に対する慰謝料の額は、原告らそれぞれにつき各金七〇〇万円とするのが相当である。

五  原告らが、自動車損害賠償責任保険金二〇〇〇万〇八〇〇円の支払いを受け、これを原告彦部二郎の損害に金一〇〇〇万〇八〇〇円、原告彦部ハツエの損害に金一〇〇〇万円、それぞれ充当したことは、当事者間に争いがない。

六  ところで、被告は、本件事故がいわゆる好意同乗にあたるものとして、これを損害額の算定に考慮すべき旨主張するので、この点について考察する。

《証拠省略》によれば、つぎの事実が認められる。すなわち、麻弓美は、本件事故当日、高校及び職場の一年先輩である丹羽弘江にその友人方にビデオを見に行こうと誘われ、午後八時ころ自宅に食事をしてから帰る旨の電話をかけたうえ、他一名の女性と計三名で、同村大字阿左美一五二二番地の二所在の尾内一浩方に至り、間も無く同所に来た被告その他のほぼ同年齢の男子らとともにビデオを見たが、同日午後一一時ころになって、右尾内が在室した先輩との同席を嫌って、ドライブに行こうと言出し、男子らとともに、屋外に出たので、麻弓美らも、成行き上、続いて屋外に出て、被告運転の自動車の助手席に麻弓美、後部席右側に右尾内、同左側に右丹羽が乗り、他の者達は別の一台に乗って、ドライブに出発することとなった。麻弓美は、それまで夜間に友人同志でドライブなどをしたことはなく、同行した三人の女性以外の右男子らとは同夜初めて出会ったばかりであり、家での門限も九時とされていて、無断でこれを破ったこともなかったが、同夜は、前記のような経緯から、夜間のドライブに参加することとなったものである。そして、出発後間も無く一旦停止したとき、他の一台に乗っていた者達から、草木ダムに行こうと言われ、被告運転の自動車も他の一台に続いて草木ダムに向かったが、被告は、前車を一時見失い、これに追付こうとして、制限時速四〇キロメートルのところ時速約七〇キロメートルで走行したため、本件事故を惹起したものである。被告は、夜間友人同志で自動車を連ねてドライブをすることも稀ではなく、また、速度違反二回を含む八回の道路交通法等の違反歴を有するものである一方、麻弓美は、勿論被告の自動車運転技術等について全く知るところはなかったが、同夜の被告の速度の出しすぎを危惧し、これを制止しようとしていた。以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、右認定の事実によれば、本件事故において、麻弓美が、いわゆる好意同乗として、被告と運行利益ないしは運行支配をともにしていた程度は極めて僅かであるとしなければならないから、これにより原告らの前記損害から減ずべき率は一〇%とするのが相当である。

七  そうすると、被告に対し、原告彦部二郎は、前記の二の1の金五万一〇〇〇円、同2の金一二〇万円、同3の金一〇〇六万三一九五円及び同4の金七〇〇万円の合計金一八三一万四一九五円から前項記載の一〇%を減じた金一六四八万二七七五円からさらに前記五記載の金一〇〇〇万〇八〇〇円を控除した金六四八万一九七五円の損害金の支払いを求めることができ、原告彦部ハツエは、前記の二の3の金一〇〇六万三一九五円及び同4記載の金七〇〇万円の合計金一七〇六万三一九五円から前項記載の一〇%を減じた金一五三五万六八七五円からさらに前記五記載の金一〇〇〇万円を控除した金五三五万六八七五円の損害金の支払いを求めることができるものである。

八  そして、《証拠省略》によれば、原告らは、本件事故に基づく損害賠償の訴訟追行を弁護士に委任しその報酬を支払うことを約していることが明らかであるところ、前記認定の事実によれば、原告らが訴訟代理人である弁護士に支払うべき報酬の内、原告彦部二郎については金五〇万円、原告彦部ハツエについては金四〇万円は、本件事故による損害として被告に請求することができるものとするのが相当である。

九  したがって、原告らの本訴請求は、被告に対し、前記七及び八記載の各金員及び右七の金員に対する本件事故の日の翌日である昭和五九年五月一一日から民法所定の年五分の割合いによる遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は失当といわなければならないから、右の理由のある限度で原告らの請求を認容しその余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 楠賢二)

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